2014年9月18日

補助輪付き幼児車の常識を覆す「ランニングバイク」の台頭

自転車に乗っている人、もしくは乗ったことのある人なら必ずしや経験したであろう、補助輪を外すという練習。
もしかしたら、それはもはや過去の文化なのかもしれない。

最近急激にマーケットが拡大している「ストライダー」はそれまでの入門用自転車とはまったく異なり、ペダルやチェーン、ブレーキといった自転車としての基本構成パーツは存在しない。
それでも将来的に自転車への乗り換えはスムーズで、補助輪を使わずに自転車に乗ることができたという事例も少なくない。

それはナゼなのか?

自転車に乗って倒れないように前に進むには2つの動作が必要だ。
まず1つがペダルをこいで前に進む動力を得ること。
そしてもう1つが倒れないように全身でバランスを取ることだ。

このどちらの要素も大切で、どちらかが欠けてはうまく自転車を乗りこなすことができない。
従来の考え方では、自転車のペダルを回すということに重点を置いてきたように思う。
常識として、それがファーストステップとされていたのだ。

しかしストライダーを初めとするランニングバイクのはそもそもペダルなど付いていない。
前に進むには足で地面を蹴る以外にはないのだが、それが自転車の上達となんの関係があるのだろうか?
それはバランス感覚を養うこと、つまり先ほどの2つの要素のうちの1つだ。


子供に補助輪付き自転車を買い与えたことのある人なら分かるかもしれないが、まず自転車にまたがった子供はペダルではなく、直接地面を蹴って前に進もうとする。
これは前進むための直感的な動作であって、止まる時も同じように足で踏ん張って停車させようとするだろう。
ましてブレーキレバーなど、握ることすら困難だ。

つまり難易度で言えば、足で蹴って前に進み前進でバランスを取るというのは、歩行の次段階くらいで、もうひとつの従来の補助輪付き自転車のように、べダルを回して前に進み、ブレーキで減速、ハンドル操作で方向を変えるというのは、その遥か先の段階の次元のスキルが必要とされると考えて良いだろう。

この理屈が正しいのであれば、ランニングバイクというのは、実に理にかなった乗り物ということになる。



ストライダーをはじめとするランニングバイク。
商品そのものは個人的には素晴らしいものだと思っている。
しかし自転車店の視点から見れば、手放しで歓迎できない部分もなくはない。

ランニングバイクのほとんどが「幼児乗用玩具」「ペダルなし二輪遊具」というジャンルに分類され、つまりは自転車ではないのだ。
自転車ではないため、例えば「JIS D9111 自転車-分類及び諸元」というような安全基準が取り決めされていない。
当然、玩具であるため公道での使用は禁止されているが、事故が後を絶たないのも現実だ。

2012年4月4日 読売新聞 ペダルなし自転車、公道走らないで…
http://evc.cocolog-nifty.com/okochama/2012/04/post-8c0c-5.html

結局のところ、ランニングバイクが使える場所は限られているし、乗り手が上達すればするほど危険な乗り物になってしまうというデメリットがあるのだ。


そこでフィクションサイクルがオススメしたいのは、拡張性の高いランニングバイクだ。
やや昔の話だが、補助輪を外す練習をスムーズにするために開発されたブリヂストンの「幼児車用レッスンペダル」というものがあった。
これは、練習する時に邪魔になるペダルを簡単に付け外しできるというものだった。
拡張性の高いランニングバイクはこれ以上に細かいステップアップに対応しており、ランニングバイクから幼児用自転車への移行が段階的に行えるのだ。

ドイツ生まれのキッズサイクル(子供用自転車)=ステップアップ・バイク『レンラッド/RENNRAD』
フィクションサイクルがなぜこの自転車に注目したかといえば、それは作りの良さが際立っていたからだ。
3万円以上とかなり強気の価格設定に見えるが、単に機能性の問題だけでなく、アルミフレームの造形の美しさ、こだわりのパーツ構成、スタイリングの格好よさなど、大人が満足できるクオリティーとポテンシャルを秘めている。

上の写真の状態では他のランニングバイク同様、ペダルは付いていない。
これに付属するパーツを組み合わせることによって自転車へとトランスフォームする。
付属するのは、ペダル、クランク、チェーン、チェーンケース、ドロよけ、リアリフレクターだ。
フロントブレーキはカンチタイプ、リアブレーキはコースター式が元々セットアップされている。

ハンガー周辺はすでにユニットになっており、ボルト2本で簡単に取り付けることができる。

チェーンを掛ければあっというまに「自転車」になる。

チェーンケースを取り付けたところ。
作業に必要な工具は一通り付属しているが、基本的には、

・5mmアーレンキー
・プラスドライバー
・15mmレンチ
・15mmペダルレンチ

だけで組立てできる。

フィクションサイクルは自転車店なので、ただ取り付けるだけではなく、ハンガー調整や細かなフィッティングを行っている。
自転車そのものの作りは非常に良いのだが、やはり海外製の商品ということもあって、小物の精度や説明書がアバウトといった面もあるため、心配な人は迷わず自転車店に持ち込むのが近道だろう。
面白いのは、説明書が日本の会社の製品と違い、要約すると「頑張って作っているが、自転車は複雑なものだから、出荷された状態が完璧じゃないこともある。だからしっかり点検してね」といったように、開き直りとも取れる表現があることだ。
しかしこれは実に当たり前のことで、工業製品とは本来そういうものなのだ。
これが許されない風潮になれば、かつてのリコール隠しのように、失敗を隠蔽するような動きにつながりかねない。

自転車として完成した状態。

この自転車の素晴らしさは自転車を良く知っている人間ほど関心する点が多い。
例えば、かなり寝かせたヘッドアングルは直進安定性を高めて不安定なハンドリングを解消するし、シート角もシートを上げればトップに余裕ができるような設計だ。
またエンドも工夫されており、チェーンを付けたときは正ツメの反対(逆ツメともやや違う)になり、万一ネジが緩んでもホイールが抜け落ちることはない。
合わせてエンド位置も上下に設置されており、チェーン仕様にした場合は多少サドル位置も高くなるのだ。

ヘッドパーツにも工夫があり、ハンドルは左右ともに60度くらいまでしか回転しないようになっており、ハンドルが回り込んでの思わぬ転倒を防ぐ効果が期待できるほか、ブレーキワイヤーがグルグルになって動かなくなるといったよくあるトラブルもなさそうだ。

フロントブレーキは引きの軽いカンチタイプ。
普通はコスト的にキャリパーを使うが、引きが重くなりやすいといった問題があり、またVブレーキは子供には制動力が強すぎるため、ここにカンチを使うというのはメーカーのこだわりだろう。

リアブレーキはペダルを逆に踏むことによって作動するコースターブレーキだ。
コースターは日本ではなぜかネガティブな印象を持たれておりあまり普及していないが、ブレーキレバーを握る力の無い子供でも確実に制動力を得られるメリットがある。
ここもあえての選択なのだろう。

コースター本体には「HISTOP」の文字。
下には欧州のJISに相当するEN規格「EN 14764」の刻印もある。
EN 14764はシティ車とトレッキング車向けの規準であり、その厳しさはJIS以上。
近年日本でもスポーツBAAの普及への動きがあったが、まずお手本にしたのがこの欧州のEN規格なのだ。
話は脱線するが、自転車のJIS規格はカバーする車種が少ないといった問題はあったが、その内容はかなり高度なもので、日本の自転車界の先人達がいかに世界に追いつかんと努力をしてきたかということがひしひしと伝わってくる。

Public Safety StandardsBundesrepublik Deutschland
https://law.resource.org/pub/de/ibr/din.en.14764.e.2006.html
このドイツの資料にも日本のJIS規格について触れらている。

JIS D 9301(英語訳版 一般用自転車)
https://law.resource.org/pub/jp/ibr/jis.d.9201.e.2001.pdf
JIS D 9302(英語訳版 幼児用自転車)
https://law.resource.org/pub/jp/ibr/jis.d.9302.e.2008.pdf

ドイツクオリティーということもあり、フレームの造形は美しい。

裏から見ても独創的な構造。
何よりこの工作にはどれほどコストがかかるかを考えれば、強気な価格設定も納得だ。
溶接も高級DHマシン顔負けの手の込みようとなっており、生産工場のレベルの高さを感じさせる。
当然アジアのどこかでの生産なのだろうが、このクオリティはかなりランクの高いOEM先であろう。

地味な部分ではあるが、直付けサドルは角度が可変式となっている。
日本のメーカーではまず無い発想だ。

タイヤはシュワルベ/SCHWALBEを採用。
しかもスリックの王道「ビックアップル」だ。
これは正直驚いたが、このタイヤはけっして安いわけではない。
性能などまったく求めない子供の自転車によくもまあといった感じだ。

ここまで見てきた通り、知れば知るほど魅力的なRENNRAD。
ストライダーは確かに1万円前後とお手ごろ価格ではあるが、その後のステップアップで必ず自転車を購入しなければいけないことを念頭に置けば、この自転車の本当の価値が見えてくるだろう。

12インチ


14インチ(今回掲載している写真はこちらの14インチ仕様)


ここからはこの自転車とは関係のない話になるが、もし補助輪からの入門ではなく、ランニングバイクで自転車に乗ることを覚えたのなら、将来的に日本人の自転車スキルは全体的に向上するかもしれない。
なぜこんなことを言うかといえば、ここ最近のロードレーサーブームなどでスポーツ自転車の愛好家が実に多くなったと思うのだが、ライディングスキルがともなっていない人がたくさんいるように見えるからだ。
距離を乗ることによって筋力が鍛えられるので、そこは自然に成長するのだろうが、左右バランス、まして前後バランスのこととなれば、あまり良好とは言えない。
つまり失礼なことを言ってしまうと下手なのだ。

15年以上昔の話になるが、あの別府がロードで軽々とウイリーをして見せたとき、あの周辺にいた人は軽く衝撃を受けたに違いない。
とにかくペダリングと脚力、ポジションなどの話がメインで、バイクコントロールやバランスといった切り口で自転車を考えることなどほぼ皆無だったからだ。
それがタイムにどんな関係があるのかは、今でもはっきりとは分からないが、事実として彼は早かったし上手かった。
そしてもう一人、この方は別格すぎるので特に言えることはないが、あのMTB界のレジェンド、柳原康弘氏もただ自転車に乗っているだけなのに、それだけで「我々凡人の理解できる範疇を超えてしまっている」とタメ息をつかせる何かがある。





つまり、このように「自転車に乗っている」と表現しても、それは文字が同じだけで、意味がまったく違うように思えるのだ。
もしかしたら、「ランニングバイク」で早い段階からバランス感覚に親しむことによって、本当の意味での「自転車に乗る」ということが可能になるのかもしれない。

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