2014年9月27日

電動アシスト自転車はレースマシンに勝てるのか?【後半】

前回の【ロード編】では惨敗を喫した電動アシスト自転車。


電動アシスト自転車はレースマシンに勝てるのか?【前半】
http://fiction-cycles.blogspot.jp/2014/09/e-bike-vs-racing-bike-1.html


しかしここまではもちろん想定内である。
アシストの国内規準の上限は24km/hであり、しかも上限に向かって行くにつれ出力は絞られていく。
http://www.solar-ene.com/suped.html
こちらのサイトにある、アシスト比率の変化の図が分かりやすい。

ロードレーサーの速度域は一般ライダーでも20~45km/hくらいのレンジで走ることができ、つまりまったくと言っていいほどアシストの恩恵は享受できないのだ。
だが、MTBは違う。
未舗装路はロードほどスピードは上がらないし、傾斜も断然大きい場所がある。
もちろん走る場所により大きく変わることもあるが、MTBの登りと平地での速度レンジは5~35km/hくらいだろうか。
時速5kmと言えば徒歩と同じくらいだが、傾斜によっては乗るか押すか迷うというシーンは山の中では多々あることだ。
この速度レンジを上の表に当てはめれば、まさに「美味しいとこ取り」である。



今回使用している電動アシスト自転車ももちろん市販状態のまま、レギュレーションは上の表と同じだ。
よく「電動を改造して速く走れるようにならないか?」という話を耳にするが、これは道交法に違反するだけでなく、もし世間から非難の目で見られるようになったなら、電動アシスト自転車という素晴らしい乗り物自体の発展を妨げることに繋がりかねない。
かつてバイク「3ない運動」というものが30年以上前にに打ち出されたが、その後バイクメーカーやバイク文化がどうなったかを見れば、なんとなく分かるだろう。

【バイク「3ない運動」30年間の功罪。】(別サイト)
http://ameblo.jp/mt01c309a/entry-11293333095.html

しかし無改造であればそれでいいか?と言えばそうではない。
右と左の自転車は同じパナソニックの商品で同じユニットとバッテリーが使われている。
しかし右側の使用目的は「買い物」が主であり、山を走ることなど一切考えて設計されていない。
このままDHコースを全開で下るのは危険極まりない行為であるため、フィクションサイクルでは、一般カタログ商品である「ジェッター/BE-ENHC549」に安全を確保するための最低限のパーツ交換を行い、今回のダート走行を行っている。


電動アシスト自転車 VS マウンテンバイク(XCバイク)

ようやく勝ち目のある戦いとなってきたMTB編。
まずはMTBレースの王道、クロスカントリーレースからだ。
勝負をかけたレース当日は生憎の雨ということもあってヘビーウエットのマッドコンディションにもほどがあるという状態。
しかし路面が荒れると強いのが電動アシスト自転車の特性だ。
この理由にはいくつか訳があるが、やはり後ろ荷重をキープできるところが大きい。
普通であれば腰を浮かしたくなる登り坂でも、サドル後方にどーんと構えてトラクションを稼ぎながら踏み込めるのが良い。
また登りでの軽さを追求せず、太めでノブの高いタイヤが選択できたのも効果的だったのだろう。
他の参加者の多くが1.9を使用するなか、なんと2.35のAMタイヤを余裕で回しきれたのは電動のおかげだ。
そのため、下り、激登り区間では好タイムを叩き出すことができたし、同じクラス内では総合でも上位に入賞できるタイムだった。
そして、気になるJシリーズの上位エリートの背後から追いかけたときの感想だが、はっきり言って絶望であった。
上記の理由から、下りではほとんど差が付くことはない。
問題は登りで、彼らの登りスピードは電動のアシスト域を一瞬で振り切るほど早いのだ。
一方の電動は速度が上がれば上がるほどキツく、下りで縮めて登りで離されるという、電動としてはあるまじき姿となってしまた。

初級者同士だったら=電動の勝ち
中級者同士だったら=ドロー(コンディション次第)
上級者同士だったら=XCバイクの圧勝

勝つためには・・・
上位陣を追うなら、車重を11kg台まで落とす & アシスト速度域を30km/hまで引き上げる

電動アシスト自転車 VS ダウンヒルバイク(DHバイク)

坂を楽に登るために生まれた電動アシスト自転車にとって、これほど意味不明な挑戦があるだろうか?
しかもジェッターはハードテイルなのに対して、現在のDHマシンは前後ストローク200mmオーバーがスタンダード。
ドロップオフや高速ストレートが頻発するコースに挑むのは自殺行為である。
ということで、今回は対戦車両もハードテイルマシン、コースもビギナー用という設定。
フロントサスペンションも車体が許容できるギリギリの150mmまでストロークを引き上げた。
タイヤもドライコンディションなら「パナレーサー/CG All Condition AM」、ウエットコンディションなら「コンチネンタル/MUD KING」という2種類を用意するという力の入れ様だ。

さて結果はというと、意外と悪くないという感じ。
特にスタートダッシュでのアドバンテージは大きく、スタートラインのギャラリーのざわつく声も聞こえてくる。
出足の悪いDHバイクがもたついている間に、数メートルは優位に立ったであろう。
10速のギアも大して必要とせず、トップ寄りの4枚ほどのギアがあれば十分そうだ。
まるでトルクモンスターのアメ車がクロスミッションを必要としないのと同じように、シフトアップのロスのほうが大きい。
しかし残念ながらここでモーターの出番は終了する。
時間にしてわずか5秒程度だ。
その後のコーナー区間では車重こそあまり感じないものの、リアセンターの長さに起因する回頭性の悪さに終始悩まされることになる。
またギャップセクションでは20kgオーバーという重戦車バイクのため、飛び越えたくてもコブの谷に落ちてしまうという問題のため、舐めるように走るしかない。
漕ぎセクションでも時速25km/hを下回ることはなく、ペダリングはやや重たい。
そしてゴールして暫定タイムを確認・・・

「遅くもなく、早くもなく」
やはりDHはテクニックがものを言う競技。
機材によるタイム差はわずかなものという結果だった。
むしろスタートダッシュで稼いだアドバンテージを上手く死守できれば、電動は早いのかもしれない。

初級者同士だったら=DHバイクが僅差で勝ち(スキル次第でドロー)
中級者同士だったら=DHバイクの勝ち(スキル次第でドロー)
上級者同士だったら=DHバイクの勝ち

勝つためには・・・
ジオメトリーを見直し基本性能を向上させる & 車重をコントロール可能範囲まで落とす

電動アシスト自転車 VS オールマウンテン(トレイルバイク)

このカテゴライズには賛否両論ありそうだが、山の中を走るバイクはすべてこの中に入れてしまうことにした。
これはレースを行うバイクではないかもしれないが、順位をつけないとしても、その性能はレース機材顔負けに優れている。
また林道ラリーなどのスポーツイベントも少ないながら日本各地でひっそりと行われていることから、今回は電動チャレンジの対象としてみた。
走るのは整備されたコースではなく、シングルトラックやダブルトラックと中心とした山道や林道だ。

最初に言ってしまうと、今回の企画の中でもっとも電動アシスト自転車の優位性が示されたのがこのジャンルだ。
なにせ大自然が相手であるため、高速セクション、激坂、担ぎ、押し上げ、なんでもありだ。
路面も、土、砂利、草、岩場、舗装、泥濘、河川と幅広い。
当然バイクのアベレージ速度も低くなるため、モーターの回し甲斐があるというもの。
海外のE-BIKEはこのカテゴリーでのラインナップがほとんどであることを考えても、マッチングはバッチリだ。

今回は2つのイベントにてその性能を試してみた。

激坂オールダート峠越え50kmツーリング

対戦相手は軽量29er、フルサスカーボン、フルXTRクロカンバイクなどそうそうたる顔ぶれ。
これはまさに体力が速さを決定する。
アベレージ15km/h以上で坦々と登り続ける電動アシスト自転車に付いていけなくなる参加者が続出。
しかし上級ライダーは隙を見つけてはアタックを仕掛けてくる難敵だった。
一度アタックが掛かれば車速は25km/h以上まであがり、先の見えないつづら折での消耗戦が続いた。
勝敗を決したのはフィジカルよりメンタルだろう。
頂上がどのくらい先か分からない不安の中、電動がもたらす精神的アドバンテージは大きかった。
また最後は遅れた同行者にロープをかけて牽引するという電動アシストの奥義により、集団の形成も用意であったことも付け加えておく。

初級者同士だったら=電動の圧勝
中級者同士だったら=電動の勝ち(バッテリーの容量次第)
上級者同士だったら=AMバイクの勝ち

勝つためには・・・
アシスト速度域を30km/hまで引き上げる & バッテリー容量をアップさせる or 車重を軽くする

押し上げ、担ぎどころ満載トレイルラリー

コアなMTBライダーが集うことで有名なトレイルを走るラリー。
ここでも電動アシスト自転車は驚異的な速さを発揮する。

と思ったのもつかの間・・・
押し上げできずに失速する。
車体が重過ぎるため、足元のコンディションが悪ければシューズが埋まってしまい前に進むことすらできないというまさに地獄絵図。
また担ぎセクションでは階段だけでなく、はしごが登場。
とにかく車体の重さに終始苦戦させられる展開となってしまった。
さらに電動は足を止めてもチェーンなどは一定時間回転し続けるフロントフリーに近い構造であるが、これが悪さをして、ツタや枝が絡まりまくるというトラブルも発生した。
もし前後クイックリリースでなければリタイヤしていただろう。

ライド区間の速さと、担ぎ区間の遅さがトレードオフの関係にあり、最終リザルトは中間あたりとなった。
そして長く続く登り区間でも上位陣の後姿さえ見えなかったことから、XCレース同様、彼らの速度域はアシストの及ぶ遥か上にあるのだろう。

初級者同士だったら=電動の勝ち(20kgオーバーを担げれば)
中級者同士だったら=トレイルバイクの勝ち
上級者同士だったら=トレイルバイクの圧勝

勝つためには・・・
押し上げモードの採用 & せめて担げる重量にする & アシスト速度域を30km/hまで引き上げる

また本来の性能とは関係ないが、フィクションサイクルのジェッターはバッテリーからUSB電源供給が可能なキットが搭載されており、GPSやスマホ、ライト、ウエアブルカメラなどのへ給電によりロングライド中のバッテリー切れの問題を解消することができたのは大きなメリットだった。


電動アシスト自転車 VS トライアルバイク

もはや何がしたいのか分からないレベルに突入。
ちなみにフィクションサイクル店長はトライアルなどできないので、ここは専門のライダーにご登場頂いた。
まず、あまりにも重たい重量と、特殊なジオメトリーにより、トライアル的な技は何一つ成功せず。
ここは不戦敗となっている。

何がダメであったかと言えば、当然車重ではあるのだが、その他にも2点大きな問題があった。
まず1点が、リアセンターがあまりに長いことだ。
これによりフロントアップ系のテクニックはほぼ封殺されてしまっている。
そしてもう1点がノッチの問題だ。
トライアルでは72ノッチ以上が多く用いられるが、これはペダル入力をダイレクトに後輪の駆動に伝えるためである。
一方電動はといえば、リアハブにXTの36ノッチを入れているが、実はフロントにもラチェット機構が入っているのだ。
特にフロントのラチェットはノッチ数が荒く、どこで噛み合うのか感覚として掴みづらいという弱点があり、停止状態から一気に駆動をかけたいトライアルにおいては致命的となっている。
最終的にはライダーより、「電源を切って挑戦してもいいか?」という提案があり、企画自体が成立しなくなってしまった。
しかし可能性の話として、モーターの立ち上がりレスポンスが圧倒的に向上すれば、オートバイトライアルのように、自転車でのトライアルを超えるパフォーマンスになるかもしれないという話題にも発展した。

勝つためには・・・
軽量化 & レスポンスアップ & リアセンターの短縮 そして電動バイクトライアルの確立

電動アシスト自転車 VS ジャンプ、トリック、パークライドなど

トライアルに続き、もはや電動である必要が微塵も感じられない無意味な戦いではあるが、普通の自転車では想定もしていない乗り方に、電動アシスト自転車はどのような反応を示すのか気になるところではある。
当然シングルがメインなのだが、そこまで合わせることはできないので、DH仕様のままでチャレンジを行っている。
もし20インチの「EZ」などで車両を作成していたなら、多少マシな結果だったかもしれない。
今回もまともに成立はしていないので、良かった点と悪かった点を上げてみるが、ほぼ不満である。

ダートジャンプ系(DJ)

良かった点:
・スタートからテーブルに向かっていく時のスピードの乗りが良い。
・比較的バランス配分がセンターに集中しており、前後のコントロールは可能。
悪かった点:
・飛んでからバイクを身体に引き付けてもまったく動じないほどの車重。
・ホイールベースが長く、BB軸はフロント寄りなため、リアが特に長く感じる。

パーク、トリック系

良かった点:
・特になし。
悪かった点:
・アシストがコントロールできないため、可能な技は限られる。
↑例えば「ホッピング180」から「フェイキー」に入った時にまだアシストが利いているため、後ろ方向に進むことができず、止まってしまう。

以上のように、速く走ることを第一としていないものについては、アシストの意味がないため、このジャンルの電動化が進むことは当面ないだろう。
ただ得られたものとして、モーターユニット内のハンガー軸のシールドベアリング周辺がハードな使用に耐え切れないというがあり、ガタの出ていたベアリングの打ち換え作業は行ったが、逆にこの他の部分にはなんの問題もなく、非常に強固なユニットであることが判明している。


勝つためには・・・
モーターの出番がないため方法不明。


以上でこの企画は完了となる。
結果としては、本気の勝負となれば、「電動アシスト自転車はレース機材に勝てない」というのが現時点での答えだった。
もし今後の技術革新や、国内法の改正でレギュレーションが見直しにでもなれば、この結果が覆る日がやってくるかもしれないが、それはしばらく先のことだろう。
だから電動はやっぱりダメか・・・と言えばそれはまったく逆で、大きな可能性も見えてきた。
今回もしひと言コメントを残すとしたら、
電動は意外と走れる」だ。

電動が誕生した経緯は、まずはシニア向けである。
そして次に力の弱い女性、業務用、通勤、通学・・・と拡大してきたわけだが、この原点であるシニアというのは誰にでもいつかは訪れるものである。
スポーツの世界においても同様で、例えば現在バリバリのワールドカッパーであっても、いつかは誰かに抜かされるだろうし、そのうち坂道がきつくなったり、年下のライダーに付いていけなくなるということもあるだろう。
そんなときに求めらるのが電動アシスト自転車なのかもしれない。
それは速く走るためではなく、楽しく走るためのものとしてだろう。
だがそのためには速く走れなくてはならないというのが、スポーツ自転車のおもしろいところだ。



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