2013年7月29日

Panasonic「ジェッター」のディスクブレーキ化


今やMTB系スポーツ車のブレーキの定番と言えばディスクブレーキである。
現在発売されているモデルの中級以上には「カンチ台座」すら存在しないのが当たり前となってきている上に、ロードバイクでもディスク化への動きは出てきている。
自転車は少ないパーツ構成で多機能化するために、各パーツが様々な役割を担ってきた歴史があるが、21世紀に入り、それぞれのパーツが自分の本分に専念する傾向が強くなってきたと言える。
自動車業界では「単能工」と「多能工」という言葉があるが、自転車で例えるならば、ロードバイクは多能工、MTBは単能工である節が強い。

例えば、ロードバイクのフレームは衝撃の吸収性が重要視されているが、MTBのフレームは強固に全体を支えることが重視されている。
なぜなら、MTBの衝撃吸収はサスペンションという別の部門が専門で担当しているからだ。
今回のテーマのディスクブレーキにおいても同じことが言えるだろう。
「ディスクローター」という円盤状のパーツがあるが、これは本来であれば、ホイール(リム)が受け持っていた機能である。
これがなぜ分業制になったかと言えば、機材の進歩の中で、ホイールはより軽く、より強く、より空気抵抗を少なくと求められたため、ブレーキの構成部品の一員でいられる余裕がなくなったのである。
同時にブレーキはより制動力を高く、より確実に、よりコントロールしやすくというニーズの中でディスクブレーキという独立した構造に進化して行ったと言ってよい。

それに対してロードバイクにおいては、軽量化というテーマが何十年に渡り課題とされていたため、部品点数を増やすという行為に対して否定的であった。
しかし、技術のレベルが向上し、UCIの定める最低重量の6.8kgが簡単にクリアできるようになってしまった現在においては、これ以上の軽量化は無意味であり、次に向かう先として予想されるのはやはりMTBが先に辿ったように、それぞれの機能への追求ではないだろうか。
ロードバイクのディスクブレーキ化も、そう考えれば納得が行く。



話は戻り、ブレーキ台座についてだが、あのシマノがレースグレードのコンポーネントの中で、カンチおよびVブレーキの供給をやめてしまった現状において、カンチ台座を採用しているモデルは、廉価帯やシティーユースの商品に限られる。(とは言ってもシクロクロスなどで一部の需要はあるが)
つまり、「Vブレーキ=低グレード」のレッテルを貼られてしまったも同然である。
これが一般の自転車の話であれば、対応は簡単で、ただディスクマウントのあるフレームを買い換えれば良いのである。
しかしそうも行かない場合がある。
それが電動アシスト自転車だ。

電動アシスト自転車はお買い物や通勤がメインなのだから、Vブレーキでも良いじゃないか?という意見が大半を占めるだろうが、人間というものは自分の所有する「モノ」の価値を高めたいと思しまう生き物なのだから仕方がない。
これは所有欲だけの問題ではなく、普段からディスクブレーキを愛用していれば分かるが、あの制動力やコントロール性の高さを知ってしまったら、なかなかVブレーキで満足するという訳には行かない。
他にも、坂道の多い地域で電動アシスト自転車を利用している人からこんな話を聞いたことがある。
「急坂は上れるけど下れない」
これは自転車メーカーも盲点だったかもしれないが、簡単に坂を上ってしまうと、そこが急坂であることが認識しづらい。
今販売されている電動アシスト自転車のブレーキは一般車と同じ制動力しかないため、このようなことが起こる。
一昔前に4WDの自動車が普及し始めた時にも似たような話があり、雪道の峠を勢い良く上って行った4WD車が、下りのカーブでガードレールに突き刺さっているのを良く見かけたというもの。
「下りの性能に関しては従来と同じ」という認識が欠けてしまっていたからだ。

電動アシスト自転車で油圧のディスクブレーキを純正で採用しているモデルは、調べた限りでは、パナソニックの「チタンフラットEB」というセミオーダーの一機種しかないのが現状だが、その価格は安めの軽自動車と同等で,、おいそれと誰でも購入できるものではない。

パナソニック チタンフラットEB
http://cycle.panasonic.jp/products/electric/ENV2/index.html

その他ではヤマハの「PASブレイス」やブリヂストンの「リアルストリーム」がフロントのみにメカニカルディスクを採用しているが、これははっきり言って見せかけに近いものがある。
その理由として、電動アシスト自転車の購入層が、実はスポーツ自転車ユーザーから程遠いところの位置しているのが要因ではないかと思うが、自転車を良く知っている人間にとって重要なのは、前後で同じ構造、グレードのブレーキが使用できるがどうかである。

PASブレイス


リアルストリーム


今回ディスクブレーキ化した「ジェッター(BE-ENHC549)」もパナソニックのチタンシリーズを除けば、国内最高価格に近い17万円という商品だが、クロスバイクという位置付けのため、Vブレーキが採用されている。

ダストカバーを外したFH-R505A

このジェッターを見ていてふと気が付いたのが、FH-R505Aというハブである。
ダストカバーを外してみると、センターロックタイプのディスクローターに対応可能であることが分かる。
しかしフレーム側にはディスクマウントはなく、そのままではディスク化することは出来ない。

トレック、クライン、フィッシャー共通ディスクマウントアダプタ(中央の黒いパーツ)

そこで用意したのが、トレック、クライン、フィッシャー用のディスクマウントアダプタである。
これはディスクブレーキの普及過渡期において、後の拡張性を確保するために用意されたパーツであり、現在はオークションなどで入手できる。(ebayでは$25程度で売られている)

以前までは楽天などで「ミスターコントロール」や「A2Z」のディスクマウントアダプタが普通に販売されていたが、残念ながら最近では見かけることはない。

ebayサイト
http://www.ebay.com/bhp/rear-disc-brake-adapter

マウント装着イメージ

やや形は違うものの、サイド面は平坦で相性はかなり良い。
フレームに乗せただけで、横位置、縦位置ともに下記の寸法にぴったりと収まった。

ディスクマウント規格(インターナショナル)

ディスクキャリパー装着後

このようなケースにおいてもっとも注意しなければならないのが、このフレームがディスクブレーキの使用をまったく想定していないという点だ。
元々はボルト3本で装着できる設計のアダプタだが、もしフレームに穴を開けてボルト3本だけで固定した場合、ブレーキング時の応力が一ヶ所に集中し、最悪フレームが破断する可能性が高い。
その事態を極力避けるため、アダプタは1mmのステンレス板で挟みこみ、トルクロッドを用いたセミフローティングでフレームの広い範囲で応力を分散するように考えている。
しかしこれでも100%安全という訳ではなく、やはり「改造」の範疇からは抜け出せていない。

トルクロッドの自作は手間がかかるため、急ぎの場合はバイク用の「シフトロッド」がそのまま流用可能である。(バイク用の汎用トルクロッドは大きすぎるためオススメできない)




フロント部分

フロント周りもフォーク交換でディスクブレーキ化
こちらは比較的に簡単な作業で完了。

26インチホイールを装着

ディスク化のメリットとして、WO700CとHE26インチがコンバート使用できる点がある。
少し前に、MTBに700Cホイールを履かせてクロスバイクとして利用するのが流行ったが、ファットタイヤを履いたジェッターもガラリと乗ったイメージが変る。
この際にはタイヤ外径が同じになるようにしないと、ボトムが下がり、ペダルを擦っての思わぬ転倒事故に繋がる可能性があるので注意が必要となる。
タイヤメーカーの差もあるが、今回は26×2.30~2.40で純正とほぼ同じ外径となった。
また反対に外径が大きくなると、各部への干渉や、電動アシスト自転車特有のアシスト基準の速度域から外れてしまい、道交法違反となる危険性もあるので、要注意である。



装着後はテストライダーにも協力してもらい、まずは問題がないことが分かった。
しかし、これはメーカーの設計の想定外であり、万一事故が起こっても完全自己責任ということになるので、17万円程度の自転車なら何台買っても痛くも痒くもない、というのと、転んで怪我しても絶対に泣かない、という人以外はチャレンジしないほうがいいだろう。


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